科目「農業情報処理」の取り組みに関する調査研究
流通系部会*1アンケート2013
報告書(詳細版)

Ⅰ はじめに

 流通系部会では,数年前から流通・経済系学科における生徒の販売に係わる取り組みや活気ある活動について調査研究を行ってきた。活気ある意欲的な取り組みやその実施に関連した課題等をまとめて発表するというマクロな調査は,学科運営を考えるとき大変参考となった。
 一方で,中央教育審議会(以下,中教審)で高等学校における教育の「質の保証」が議論されている背景などもあり,新しい学習指導要領に則った授業がスタートした今だからこそ,各科目の実施状況をきちんと把握するという,ミクロな調査も継続的にきちんと行う必要があると考えた。
 そこで,本年度の流通系部会では,科目「農業情報処理」に関する取り組み状況について全国規模の調査を実施することにした。本調査が,授業に関する状況を把握するとともに,会員の授業改善のための一助となれば幸いである。

Ⅱ アンケートの概要

 1 アンケート規模
   全国規模の調査(全国学校農場協会から全国理事を経由して各校へ文書*2を送付する)
 2 アンケート調査の方法
   Webアンケート(全国学校農場協会Webサイト*3にアンケートフォームを作成・実施)
 3 アンケート期間
   平成25年7月20日~8月20日
 4 アンケート回答校数
   東京都・滋賀県・大分県を除く44道府県の170校(回答率:44.7%(加盟380校))
  から回答があった。
 5 回答校の校種 
   回答校の校種は,次の通りであった。以下( )内は対象の割合(%)を示す。
   農業単独校:69校(40.6%)・併置校:73校(42.9%)・総合学科:21校(12.4%)・その他:7校(4.1%)
   なお,平成25年度の当協会会員校は,埼玉県総合教育センターを除き380校が加盟しており,
  校種別の割合は次の通りである(全国学校農場協会資料)。
   農業単独校(34.5%)・併置校(38.9%)・総合学科(17.1%)・その他(9.5%)

Ⅲ 調査結果

質問3:必須回答 学校に関する質問
平成25年度入学生の募集定員(学校全体)は何名ですか。
○80名以下  ○120名  ○160名  ○200名  ○240名  ○280名  ○320名以上

回答校の学校規模

fig_01.pdf 回答校170校の平成25年度学校全体の入学生募集定員は,図1のとおりである。最頻値は120名規模であり,中央値は160名規模であった。

質問4:必須回答 「農業情報処理」の履修に関する質問
農業科目「農業情報処理」を履修していますか?
○履修している  ○履修していない → 履修していない場合は、[質問39]から回答を続けてください。

科目「農業情報処理」の履修状況

 「農業情報処理」を履修していたのは154校(90.6%)であった(以下,「履修校」という)。履修校(n=154)の校種は,農業単独校:67校(43.5%)・併置校:71校(46.1%)・総合学科:11校(7.1%)・その他:5校(3.1%)であった。履修していない高校(以下,「未履修校」という)(n=16))は,総合学科が10校(62.5%)であり,単独校2校(12.5%)・併置校2校(12.5%)・その他2校(12.5%)であった。

質問5:選択回答 「農業情報処理」の履修に関する質問
科目「農業情報処理」を履修している学年全てにチェックを入れてください。
□1年  □2年  □3年  □4年

科目「農業情報処理」の履修学年

fig_02.pdf 履修校(n=154)における履修学年の状況は,図2のとおりである。履修学年は1年次123校(79.9%),2年次119校(77.3%),3年次85校(55.2%),4年次2校(1.3%)であり,8割近い学校が1・2年次に履修させている。

質問6:選択回答 「農業情報処理」の扱いに関する質問
貴校では「農業情報処理」の履修で教科「情報」を代替していますか。
(注)農業関連学科では,農業情報処理の履修で教科「情報」を代替することが可能です。
○代替している  ○代替していない

教科「情報」の代替状況

fig_03.pdf 科目「農業情報処理」の履修校(n=154)のうち,教科「情報」を代替している学校は117校(76.0%)であり,代替していない学校は26校(16.9%),未回答11校(7.1%)であった。これは平成22年9月実施の調査*4結果とほぼ同じ傾向を示している。
 代替校(n=117)の内訳は,単独校:56校(47.9%)・併置校:59校(50.4%)・総合学科:0校・その他:2校(1.7%)であり,総合学科高校では教科「情報」を代替していないことがわかった。代替している学校の単位数を調べたところ,少単位群26校(22.2%),中単位群49校(41.9%),多単位群41校(35.0%),未回答1校(0.9%)であり,代替校の3/4以上の学校が4単位以上の履修であった。p24において,「農業情報処理」の代替において,少単位群の学校がカバーするのは厳しいという指摘を受けたが,代替校の3/4は4単位以上の履修であることが分かった。
 非代替校(n=26)の内訳は,単独校:6校(23.1%)・併置校:10校(38.5%)・総合学科:9校(34.6%)・その他:1校(3.8%)であった。

質問7:選択回答 「農業情報処理」の履修に関する質問
1~3(4)年の合計単位数を教えてください。
(例)1年:2単位,2年3単位の場合=>「5単位」を回答  
(注)学科により単位数が異なる場合は,学年で最大の単位数をその学年の単位数とし,1~3(4)年生までを合計した値で選択してください。
○2単位  ○3単位  ○4単位  ○5単位  ○6単位  ○7単位  ○8単位以上

科目「農業情報処理」の履修単位数について

fig_04.pdf 履修校(n=154)の履修単位数を調べた結果は,図4の通りであった。本科目は4~6単位程度の履修を想定した内容構成になっているが,実際に4単位以上履修させている学校は109校(70.8%)であった。なお,以下の考察において,履修単位数との違いの関係からから考察を行う時,3単位以下履修の44校(28.6%)を少単位群,4・5単位履修の64校(41.6%)を中単位群,6単位以上履修の45校(29.2%)を多単位群と定義して論議する。

質問8〜10:選択回答 「総合実習」における情報処理の学習に関する質問
質問8:科目「総合実習」において,情報処理に関する部門を設定していますか。
(注)部門の名称は問いません。コンピュータ等を使って情報を処理する学習をしている部門が1つでもある場合は,「設定している」を選択してください。
○設定している  ○検討中  ○設定していない →([質問11へ)

質問9:質問8で「設定している」と回答された学校は,実施している内容を全て選択してください。
□検定への対策  □ワープロソフトの習熟を中心とした演習  □表計算ソフトの習熟を中心とした演習 
□データベースソフトの習熟を中心とした演習  □プロジェクト学習と連携した演習  
□計測と制御を中心とした演習  □統計処理  □その他

質問10:質問9で「その他」を選択した場合は詳細をご記入下さい。

科目「総合実習」における情報処理に部門の設定について

fig_05.pdf 科目「総合実習」で情報処理に関する部門(名称は問わない)を設定しているかどうかを質問したところ,設定している学校:27校(17.5%),設定していない学校:123校(78.9%),検討中:2校(1.3%),未回答:2校(1.3%)であった。
 また,総合実習内で実習を行っている学校(n=27)に対して,取り扱う内容を質問したところ,図5のような結果が得られた。
 科目「農業情報処理」は,平成元年3月告示の学習指導要領(平成6年4月実施)に位置づけられた。50歳以上の教員ならば,まだ科目として位置づけられていない時,総合実習の一部門として広く実施されていた時代を経験された方も多いかも知れない。時代を経て,科目として定着すると,一斉指導で指導する方が効率的なこともあり,総合実習の部門として設定する学校が減少したのではないか。PC室が整備されて一斉授業が中心となると,総合実習の一部門の頃と比べて,栽培や飼育に関するデータを処理する場面が少なくなってきているのではないか。現在,総合実習内に情報処理の部門を設定している学校においても,4〜5割が表計算やワープロソフトの習熟を目的とした演習や検定対策演習などを実施している。検定に向けた学習は,習熟のための時間がどうしても必要となるので,慢性的な時間数不足に陥る場合が多いので,一斉授業の授業時間を補完するという形で総合実習において実施している学校が多いと考えられる。
 プロジェクト学習と連携した学習として導入している学校も55.6%あった。他の部門で採集したデータを活用する形で,しかも少人数で演習を行っているとすれば,大変有効な実践となる。後の質問で明らかになるように,一斉授業では他の科目と連携して「農業」に関する情報を扱う機会は,必ずしも多くはない。むしろ,ワードプロセッサも表計算もプレゼンテーションの習熟場面においても,必ずしも「農業」に関するデータを処理しているわけではない。「農業情報処理」は,単に「情報を処理する」スキルを身に付けるだけでなく,農業科目で扱うデータを活用するためのツールとして,基盤科目として根付かせる必要がある。そういう観点からも,総合実習におけるプロジェクト学習と連携した学習は大変有効である。
 「その他」を選択した2校(7.4%)は,いずれもCADの習熟を目的に実施していた。CADについては,操作法の習得がそのまま専門科目に生かされるので,総合実習の部門として学習させることは大変有効である。

質問11〜13:選択回答 科目「農業情報処理」の学習内容に関する質問
質問11:以下の内容のうち,授業で取り扱っているものをすべて答えてください。
(注)選択肢は学習指導要領が示す内容です。実態調査なので,指導内容のみチェックしてください。
□情報とその活用  □農林業における情報の役割  □情報モラル  □情報のセキュリティ管理 
□ハードウェアとソフトウェア  □情報通信ネットワーク  □情報システム 
□生産・加工・流通・経営のシステム  □農業情報の活用  □森林情報の活用  □環境情報の活用 
□農業学習と情報活用  □その他

質問12:[質問11]で「その他」を選んだ場合,また教科書で取り扱われていない内容を学習している場合は詳細をご記入下さい。

質問13:[問11]で選択した学習内容のうち,指導時間の長いものから5つまで答えてください。(選択肢は同じ)

科目「農業情報処理」の学習内容について

fig_06.pdffig_07.pdf

 学習指導要領が示す科目「農業情報処理」の内容について,履修校(n=154)で取り扱う内容(「取扱内容」)及び指導時間の長い5つの内容(「重点内容」)を質問したところ,図6の回答がえられた。
 「情報とその活用」(92.2%・74.0%)・「情報モラル」(90.3%・68.2%)・「ハードウェアとソフトウェア」(81.2%・63.6%)・「情報のセキュリティ管理」(76.6%・50.0%)・「情報通信ネットワーク」(64.3%・40.9%)が上位5項目であった。以下,「農業学習と情報活用」(53.9%・33.1%)・「農業情報の活用」(49.4%・32.5%)・「農林業における情報の役割」(46.1%・20.1%)が続き,これらは内容選択率40%・重点内容の選択率20%を超える内容である。
 履修単位数と取扱内容について明確な関係性を見いだすことはできなかったが,履修単位数が少単位群→中単位群→多単位群と増加するに従って取扱内容の選択率が高くなる内容は4項目あった。それらは,「情報モラル」(86.4%→90.6%→93.3%),「情報通信ネットワーク」(52.3%→67.2%→73.3%),「情報システム」(34.1%→34.4%→40.0%),「森林情報の活用」(6.8%→7.8%→8.9%)であった。これらの内容は,授業時間数に応じて学習内容を深められる項目と考えられる。
 同様に,重点内容の選択率において少単位群→中単位群→多単位群と高くなる内容も4項目であった。具体的には,「情報のセキュリティ」(47.7%→48.4%→55.6%),「情報通信ネットワーク」(34.1%→42.2%→46.7%),「情報システム」(13.6%→14.1%→20.0%),「環境情報の活用」(2.3%→3.1%→6.7%))であり,「情報モラル」が「情報セキュリティ」に変わった。
 また,「ハードウェアとソフトウェア」は,少単位群→中・多単位群で増加が見られた(取扱内容選択率72.7%→84.4%→84.4%,重点内容56.8%→67.2%→66.7%)。
 「その他」を選択した15校(9.7%)から得られた具体的な取扱内容としては,文書作成や表計算・プレゼンテーション等のソフトの使い方などのソフトウェアの習熟のための演習であったり,検定に関する学習を記述する学校が多かった。
・ビジネス文書実務検定・情報処理技能検定(全国商業高等学校協会)
・農業簿記に類する内容 Excel(情報処理検定2級相当)
・日本情報処理検定協会主催各種試験
・他教科との連携(生物活用などの地域交流活動の報告書や,プレゼンテーションの作成)
・プレゼンテーションの方法(課題研究及びプロジェクト発表)
・プログラミング(BASICによるプログラムの基礎)
・他科目との連携として,地域交流活動の報告書やプレゼンテーションを作成する

質問14〜16:選択回答 「農業情報処理」で使うソフトウェアに関する質問
質問14:科目「農業情報処理」の授業で,実際に使用しているソフトウェアをお答えください。
□ブラウザ  □メーラ  □ワードプロセッサ  □表計算データベース  □ペイント系画像ソフト 
□ドロー系画像ソフト  □プレゼンテーションソフトウェア  □Webページ作成 
□editor(タグを打ち込むWebページ作成)   □ビデオ・音楽編集  □3次元CGソフト 
□アニメーション作成ソフト(flashなど)  □プログラミング  □CAD  □GIS  
□統計処理(Rなど)   □その他
質問15:[質問14]でその他を選択された方は,詳細をご記入下さい。
また,授業で活用しているフリーウェア等ありましたら,ご紹介下さい。

質問16:[質問14]で回答したソフトウェアのなかで,操作法や活用法の指導時間が長いものから5つまでお答えください。 ※選択肢は,質問14と同様

科目「農業情報処理」の授業で使用するソフトウェアについて

fig_08.pdffig_09.pdf

 履修校(n=154)の授業で実際に使用しているソフトウェアについて,使用するすべてのソフトウェア(「取扱sw」)と指導時間の長い5つのソフトウェア(「重点sw」)を聞いたところ,図8の回答となった。オフィスソフトと呼ばれる,ワードプロセッサ(98.1%)・表計算(100%)・プレゼンテーションソフト(92.2%)は90%を超え,他のソフトウェアと比較して圧倒的に使用率が高かった。これらに続くソフトとしては,ブラウザ(67.5%)・ペイント系画像ソフト(40.9%)・Webページ作成ソフト(18.8%)があげられる。教科書で取り扱われているデータベースソフトウェアの使用率は11.7%で,CAD(13.6%)よりも使用率は低かった。情報を処理する上で,重要なソフトウェアであるにも関わらず,使用率は低い。
 また,重点swについては,ワードプロセッサ・表計算(同率98.7%)・プレゼンテーションソフト(85.1%)・ブラウザ(48.7%)・ペイント系画像ソフト(24.7%)・Webページ作成ソフト(9.7%)と,取扱swとほぼ同じ順位であった。なお,重点swでは,データベース(8.4%)とCAD (7.1%)で順位が入れ替わっている。
 取扱swのうち,履修単位数による使用率を示したものが図9である。上位3ソフトウェアについては,表計算・ワードプロセッサソフトでほぼ同じ割合に対して,プレゼンテーションソフトウェアでは,86.4%→93.8%→95.6%と増加している。同様に増加しているソフトウェアとしては,ブラウザ:63.6%→65.6%→75.6%,webページ作成ソフト:13.6%→15.6%→37.8%,CAD:4.5%→15.6%→
20.0%,データベースソフト:9.1%→10.9%→15.6%などであった。また,ビデオ・音楽編集ソフトやアニメーション作成ソフト,3次元CGソフト,GIS,その他などは,全体として使用校は少ないものの,単位数の増加にあわせて使用頻度が高くなっていくこと,ある程度の授業時間が確保できれば取り組みたいソフトウェアであることがわかる。
 その他のソフトウェアとして記入のあった内容は,タイピングソフトウェア(タイプクイック・タイプ君),3Dモデリングソフトウェアの「メタセコイヤ」,PortableApps*5をベースにUSBでシステムを構築(約17種類)などがあった。
 社会や生徒たちにとってもかなり広く利用されていながら,授業でほとんど取り扱われないソフトウェアとしてメーラがある。詳細は,「メールやSNSの機能を使った授業」の項に譲るが,メールを使った授業実践は極端に少ない。双方向のツールである電子メールは,「教室」という閉ざされた空間で,知識伝達型の授業ではほとんど必要ないツールであるが,教室から一歩外に目を向けた課題解決型の授業を意識した時には,大変重要なツールとなることは明らかなので,ポイントだけでも取り扱うべきである。
 ドロー系画像ソフトは,ペイント系画像ソフトに比べると利用率は低い。ペイント系画像ソフトは,お絵かきソフトなどで身近であるが,ベジェ曲線なども引けるドロー系画像ソフトは,習熟のために時間が必要なために小単位群や中単位群では使用率が低いのではないかと思う。実際,多単位群の学校で使用率が一気に増加している。
 Webページ作成については,専用ソフトを使って学習する方法とeditorをつかってタグを打ち込みながら学習する方法とがあるが,短時間で見栄えのするページを作成できる専用ソフトの使用率の方が高いが,Webページの基本を理解させるためには,htmlについて触れる場面は必要かも知れない。先ほどのドロー系画像ソフトのように,Webページ作成ソフトの習熟にも多くの授業時間が必要となるため,多単位群の学校でソフトの使用率が高くなる。

質問17・18:選択回答 「農業情報処理」と他科目との連携に関する質問
質問17:科目「農業情報処理」の授業で,「農業と環境」などの他科目で取得した情報を処理する機会を計画的につくられていますか?
○「農業と環境」を含む他の科目と連携し,調査データを活用している  
○「農業と環境」以外の科目と連携し,調査データを活用している 
○他の科目と連携したデータ処理を行っていない 
○現在は行っていないが,他の科目と連携したデータ処理を検討している 
○その他
質問18[問17]でその他を選択した場合は詳細をご記入下さい。

「農業情報処理」と他科目との連携について

fig_10.pdf 履修校(n=154)に他科目で取得した情報を「農業情報処理」の授業で処理する機会を意計画的に作っているかどうかを聞いた結果が図10である。
 「農業と環境」を含む他科目と連携している学校は29.2%,「農業と環境」以外の科目と連携している学校は14.3%で,両者を併せると43.5%であった。他科目と連携したデータ処理を行っていない学校が41.6%なので,両者はほぼ同数であった。また,連携を検討している学校も13.6%あった。
 科目「農業情報処理」の目標には,「農業情報及び環境情報を主体的に活用する能力と態度を育てる」と示されている。本科目で身に付けるコンピュータ利活用のスキルは,単にコンピュータの操作やソフトウェアの操作だけでなく,「農業に関するデータ処理」という部分意識させるためにも,他の科目のデータを処理する機会を作ることは大変重要であり,担当者としては励行したい。

質問19・20:選択回答 「農業情報処理」における言語活動に関する質問
質問19:「農業情報処理」の授業で,ブラウザで情報を検索して作成したレポート・プレゼンテーション等を授業内で発表させる機会はありますか?
○レポート等を作成させ,内容を発表させている 
○レポート等を作成させるが,発表させる時間はない 
○ブラウザを使ってのページ検索は行うが,Web上のデータを加工させてはいない 
○情報検索は中学校等でも行っているので,特に時間をさいていない 
○その他
質問20:[問19]でその他を選択した場合は詳細をご記入下さい。

「農業情報処理」と言語活動の充実

fig_11.pdf 履修校(n=154)において,ブラウザで情報を検索して作成情報をもとに,レポートやプレゼンテーションを作成させたり,発表させたりするかどうかを聞いたところ,図11の結果をえた。
 「レポートを作成し発表させる」学校の割合は,少単位群7校(15.9%),中単位群26校(40.6%),多単位群20校(44.4%)と単位数が多い群ほど実施率が高くなっている。しかし,「時間を割かない」学校の割合は,少単位群3校(6.8%),中単位群9校(14.1%),多単位群5校(11.1%)となり,授業時間数が少ない少単位群の学校が必ずしも低くなく,必要な活動に時間をかけていることが分かる。

質問21:選択回答 「農業情報処理」における双方向通信に関する質問
農業情報処理の授業のなかで,メールやSNS(Twitter・LINE・mixiなど)の機能を使った授業を展開していますか?
※展開している場合は「質問44」で具体的な事例をぜひご紹介ください。
○展開している  ○展開していない  ○検討中

双方向通信による授業について

fig_11.pdfsien.jpg

 履修校(n=154)のうちメールやSNSの機能を使った授業を展開している学校は7校(4.5%)であり,展開していない学校は133校(86.4%),検討中の学校は14校(9.1%)であった(図12)。
 展開している学校に,実践例の記入を質問42でお願いしたが,回答は「メーラと教科書を併用して、「電子メールの利用」を説明」という記述のみであった。ソフトウェアの項(p9)で触れたように,メーラを授業で使用する学校は10校しかなく,メールのやりとりを授業に取り入れた学習を行っている学校はきわめて少ないことが分かる。PCの保護のために,環境復元ソフトがインストールされていると,メールを送受信するための設定を維持できず,機能しない場合があるかも知れない。
 報告された実践例が少ないので,参考として学習支援サイトを活用した実践例を紹介したい。
 前任校では,学校ドメインで生徒にメールアカウントを発行し,メーリングリストを作成し,授業前に送信する。生徒はPC室に到着後,Webメールでメールを確認する。2009年当時は静的なサイトで学習支援サイト*6を作成したが,その時のコンセプトを図13にまとめた。なお,アップロード 図13 学習支援サイトのコンセプト 
の部分はphpBBという別システムで運用した。授業記録を残すだけでも効果はあると思う(脚注)。2010年度からは,Moodleというオープンソースのコース管理システムを使い,働的なサイトにした。
 メールで双方向のやりとりができると,授業の可能性を広げることができるかも知れない。生徒からの質問を受けたり,課題を提出させたりできる。環境科学基礎の授業とのコラボレーションでは,校内の植物図鑑を作ろうと,(携帯電話の校内での使用許可を取り)携帯電話で撮影させ,その写真を自分のアドレスに送信,後でまとめて加工をおこなった。学年団やHRとのコラボでは,修学旅行中に撮影した写真を同様事前に送付しておき,それらをパワーポイントにまとめた。

質問22:選択回答 「農業情報処理」の学習内容に関する質問
ワードプロセッサソフトを使った指導場面で,各種検定と関連させて指導を行っていますか?
○特定の級位に全員が合格するよう目標を設定したうえで,検定と関連させて指導している 
○全員に検定を受検させ,検定と関連させて指導している 
○検定の受検は任意だが,検定と関連させて指導している 
○検定の受検を推奨しているが,授業とは関連させずに指導している 
○検定の紹介はするが,授業と検定を関連させて指導していない 
○授業と検定を関連させた指導は行っていない

ワードプロセッサソフトを使った指導場面での検定との関連

fig_13.pdf 履修校(n=154)が,ワードプロセッサソフトを指導する場面において,関係する各種検定どのように関連づけて指導を行っているかをまとめた結果が図13である。83.1%の学校で検定と関連づけた指導を行っており,53,2%の学校が全員に検定を受けさせている。検定と一線を画した授業を行っている学校は14.9%に過ぎなかった。
 ワードプロセッサに限らず,習熟のための学習(練習)は単調であり,モチベーションを維持しながら学習を続けることは難しい。しかし,そこに「検定」が持ち込まれると,「○級合格」という目標が見つかり,学習へのモチベーションにつながる場合が多い。検定は,○級というグレードによってどのようなことができるかが示されているので,生徒にとっても「自分はこの程度のことができる」という証明にもなる。
 一方で,検定の学習を始めると,合格のために授業時間の多くを費やさなければならないというデメリットもある。検定と一線を画する学校は,このリスクを回避するための選択かも知れない。

質問23:選択回答 「農業情報処理」の学習内容に関する質問
表計算ソフトを使った指導場面で,各種検定と関連させて指導を行っていますか?
○特定の級位に全員が合格するよう目標を設定したうえで,検定と関連させて指導している 
○全員に検定を受検させ,検定と関連させて指導している 
○検定の受検は任意だが,検定と関連させて指導している 
○検定の受検を推奨しているが,授業とは関連させずに指導している 
○検定の紹介はするが,授業と検定を関連させて指導していない 
○授業と検定を関連させた指導は行っていない

表計算ソフトを使った指導場面での検定との関連

fig_14.pdf ワードプロセッサソフトと同様に,表計算ソフトについても履修校(n=154)の指導内容を調査した結果,図14のような結果が得られた。表計算ソフトを指導する場面において,検定と関連づけた指導を行っている学校は63.0%であり,ワードプソセッサソフトの指導の時より20ポイントほど低下している。全員に受験させている学校は33.7%であり,こちらも20ポイント低下している。全商の情報処理検定2級や3級合格を目指すとなると,文書作成に関する検定以上に資源を投入しなければならないことから,1/3強(35.1%)の学校では検定と一線を画した授業を行っているのではないかと推察する。

質問24:選択回答 「農業情報処理」の学習内容に関する質問
データベースソフトを使った指導場面で,各種検定と関連させて指導を行っていますか?
○生徒にデータベースファイルを作らせ,指導している 
○既製のデータベースファイルを使って,生徒に実際に操作させ,概要を説明する 
○インターネット上のデータベースを操作させ,概要を説明する 
○実際のファイル操作は行わないが,射影・選択・結合などの機能については説明する 
○授業時間数の関係で取り扱わない 
○指導しにくい内容なので取り扱わない 
○生徒の実態に合わないので取り扱わない 
○ハードウェアの関係で取り扱わない 
○ソフトウェアの関係で取り扱わない 
○その他

質問25:[質問24]でその他を選択した場合は詳細をご記入下さい。

データベースソフトを使った指導場面での学習内容

fig_15.pdf データベースは,情報化社会を支える大変重要な基盤であり,授業でもぜひ取り扱いたい内容ではあるが,実際に取り扱っている学校は38校(24.7%)であった。具体的には機能の説明(10.4%),既成のファイルを操作(7.8%)であり,実際に作成させる学校は5.2%であった。一方,3/4の学校は取り扱わないが,その理由は,授業時間が足りない(30.5%),生徒の実態に合わない(17.5%),ソフトウェアの関係(13.6%)の3つで全体の6割以上(61.6%)を占めている。 「その他」を回答した学校は,表計算ソフトに特化しているので扱わないというものであった。表計算ソフトのデータベース機能も強力なので,表計算ソフトでデータベースを取り扱うという方法も一つの方法かも知れない。

質問26:選択回答 「農業情報処理」の学習内容に関する質問
画像・図形処理ソフトを使った指導場面で,行っている内容についてご回答下さい。
□画像・図形の拡大・縮小        
□画像・図形のトリミング        
□画像・図形の解像度の変更       
□画像・図形のファイル形式の変更   
□画像・図形のフィルタ(効果)処理   
□画像・図形ファイルのインポート   
□授業時間数の関係で取り扱わない    
□指導しにくい内容なので取り扱わない 
□生徒の実態に合わないので取り扱わない 
□ハードウェアの関係で取り扱わない  
□ソフトウェアの関係で取り扱わない   
□その他
質問27:[質問26]でその他を選択した場合は詳細をご記入下さい。

画像・図形処理ソフトを使った指導場面での学習内容

fig_16.pdf 履修校(n=154)のうち,さまざまな理由で画像・図形処理を取り扱わない学校は58校(37.7%)で全体の1/3強の学校が取り扱っていない。取り扱う学校ではどのような内容を実施しているかというと,拡大・縮小やトリミングがをほぼ半数の学校が学習し,解像度の変更も31.2%の学校が学習する。
 「その他」の学校では,ワープロソフトや表計算のソフトと一緒に行ったり,他科目で実施するので扱わないなどがあげられていた。

質問28:選択回答 「農業情報処理」の学習内容に関する質問
プレゼンテーションソフトを使った指導場面で,行っている内容をお答えください。
□プレゼンテーションのファイルを作成する  
□クラス内で発表させる  
□クラス内で発表させ,生徒間で評価をさせる  
□プレゼンテーションをhtml出力し,イントラネット内で自由に閲覧できるようにしている 
□作成したプレゼンテーションファイルをまとめ,次年度の生徒たちが参考になるよう工夫している 
□プレゼンテーションソフトで作成した用紙を貼り合わせてポスターを作り,ポスターセッションを行っている 
□授業時間数の関係で取り扱わない  
□指導しにくい内容なので取り扱わない 
□生徒の実態に合わないので取り扱わない  
□ハードウェアの関係で取り扱わない 
□ソフトウェアの関係で取り扱わない  
□その他

質問29:[質問28]でその他を選択した場合は詳細をご記入下さい。

プレゼンテーションソフトを使った指導場面での学習内容

fig_17.pdffig_18.pdf

 履修校(n=154)でプレゼンテーションソフトを指導する場面でどのような内容を実施するかをまとめたものが図17である。123校(79.9%)でプレゼンテーションファイルを作成させており,80校(51.9%)でクラス内で発表させ,58校(37.7%)は生徒間で評価させている。「ファイルを作成する」→「作成したファイルをクラス内で発表する」→「発表を聞き,生徒間で評価させる」というこれらの教育活動は,プレゼンテーションソフトを指導する上で順をおって時間数が必要となり,教師の指導スキルもより高いものが求められる。そこで,これらの教育活動を実施している学校を履修単位数の3つの群によって内訳を調べたものが図18である。
 少単位群では,33校がファイルを作成させ,クラス内での発表は24校(72.7%),生徒相互の評価は15校(45.5%)と実施校が減少している。同様に中単位群では,51校→34校(66.7%)→23校(45.1%)と推移し,いずれの群も生徒間の相互評価まで実施した学校はファイルを作成した学校の45%程度となった。一方,多単位群では,38校→21校(55.3%)→20校(52.6%)と推移し,クラス内で発表させる段階で大きく減少するものの,その後の減少幅は小さい。多単位群では「発表する時間を確保する」ことや,「評価する時間を確保する」ことに対して,少単位群や中単位群よりも余裕をもって実施できるのかも知れない。
 新学習指導要領では,教育活動における「言語活動の充実」が指摘されている。農業情報処理の授業においても。生徒が編集・作成した成果物は,単に作って終わりというのではなく,互いに発表や評価する機会を積極的に作ることが求められている。
 「その他」2件中の1件は未実施,1件は課題研究で使えるよう短時間の学習だった。

質問30:選択回答 「農業情報処理」の学習内容に関する質問
Webページを作成する指導場面で,行っている内容をご回答下さい。
□Webページ作成ソフトを使用して作成している 
□メモ帳等のEditorを使ってタグを入力し,ページを作成している 
□WordやPowerPointのWebページ作成機能を使ってWebページの作成を行っている 
□作成したWebページを校内LAN内で閲覧できるようにしている 
□作成したWebページをWebサーバにアップロードし,インターネット上で閲覧できるようにしている 
□Webページの演習は行っていない    □授業時間数の関係で取り扱わない 
□指導しにくい内容なので取り扱わない  □生徒の実態に合わないので取り扱わない 
□ハードウェアの関係で取り扱わない   □ソフトウェアの関係で取り扱わない  □その他

質問31:[質問30]でその他を選択した場合は詳細をご記入下さい。

Webページ作成のための指導場面での学習内容

fig_19.pdf Webページ作成のための指導場面で,履修校(n=154)がどのような内容・方法等で実施しているかを質問したところ,図19のような結果がえられた。専用ソフト・editorによるタグの打ち込み・WordやPowerPointのWeb出力を使った作成など,いずれかの方法でWebページを作成している学校は44校あった。一方,Webページの演習は行っていない,授業時間数の関係で取り扱わないをあわせると80校になる。「その他」は,表計算に特化しているので取り扱わないであった。
 作成したWebページをイントラネット内で閲覧できるようにしている学校は3校,インターネットの公開している学校は2校あった。サーバー上のhtmlファイルを読みに行くというWebページ閲覧のメカニズムやファイルのアップロードやダウンロードについて理解する上でも大変有効な実践である。なお,「農業情報処理」の新課程の検定教科書には,情報通信ネットワークを活用した発信(p198)を取り扱っている。練習問題としてftp転送によるファイルのアップロード演習も行うことができる(教授用指導書にftp転送に必要なアカウントとパスワードが紹介されている)。

質問32:選択回答 「農業情報処理」の学習内容に関する質問
データ分析に関する指導場面で,行っている内容をお答えください。
□平均値の集計  
□標準偏差の集計  
□グラフ化(棒グラフ・円グラフ等)  
□箱ひげ図  
□t検定 
□χ検定  
□F検定  
□分散図  
□授業時間数の関係で取り扱わない  
□指導しにくい内容なので取り扱わない 
□生徒の実態に合わないので取り扱わない 
□ハードウェアの関係で取り扱わない  
□ソフトウェアの関係で取り扱わない  
□その他

質問33:[質問32]でその他を選択した場合は詳細をご記入下さい。

データ分析に関する指導場面での学習内容

fig_20.pdf 履修校(n=154)に,農業情報処理のデータ分析を行う指導場面でどのような内容を行っているかを質問したところ,図20の結果をえた。
 グラフ化や平均値の集計については6割以上の学校で実施しているが,標準偏差*7の集計となると11校(7.1%)と極端に少なくなる。平均値の集計を行っている95校を履修単位数で内訳を見ると,少単位群32校(72.7%),中単位群で35校(54.7%),多単位群で27校(60.0%)と少単位群の学校で最も実施されていることから,データ分析に関する指導は,単に授業時間数の問題だけはなさそうである。
 一方で,何らかの理由で取り扱わないと回答した学校は54校(35.1%)であった。

質問34:選択回答 「農業情報処理」の学習内容に関する質問
教科書・副教材等の使用状況をお答えください。
○教科書中心に授業を行う  ○副教材を中心に授業を行う  ○教科書・副教材の割合は半々程度 
○どちらも使わない     ○その他

質問35:[質問34]で,どちらも使わない・その他を選択した場合は詳細をご記入下さい。

質問36:教科書の他にしようしている副教材をお答え下さい。
  (注)市販の教材と自作教材(学習プリント)を併用している場合
  ・市販教材を主に使用している=>市販教材を選択
  ・自作教材を主に使用している
   =>製本してある(自作教材)/製本していない(自作プリント)を選択
○使用している(市販教材)      
○使用している(自作教材(製本済)) 
○使用している(自作プリント(未製本))  
○使用していない  
○その他

教科書や副教材の使用について

fig_21.pdffig_22.pdf

 履修校(n=154)に対して,教科書の使用状況を質問したところ,図21のような結果となった。教科書中心がおよそ2割,副教材中心が5割,教科書と副教材を半々で使用するが3割であった。
 教科書に関する要望を後に質問しているが,その中に「ワードプロセッサや表計算の練習問題数が不十分」という記述があることから,演習用の例題として副教材を利用している実態がうかがわれる。
 どのような副教材を使っているかを質問したところ,95校(61.7%)が市販教材を使用しており,41校(26.6%)が自作プリントを使っている。学校で製本した教材を使っている学校は3校(1.9%)と少数派であった。
 著作権等の問題もあるので,それらの権利を侵害しない範囲で学校ごとに多様な判断があると思う。
 筆者の勤務校(総合学科)では,1年生の教科「情報」では,30時間でマスターOffice2010(実教出版)を個人で購入させているが,2年次・3年次の「農業情報処理」では30時間でマスターExcel2007(同)をPC室に用意して授業時に各自が閲覧できるようにしている。これらの生徒は,全商の情報処理検定を受検するので,模擬試験問題集を全員に購入させている。

質問37:選択回答 農業情報処理の発展的な科目に関する質問
新教育課程の実施に伴い,科目「農業情報処理」の発展的な内容で学校設定科目を設定していますか?
○設定している  
○検討中  
○設定していない

質問38:[質問37]で,設定している・検討中を選択した学校は,科目名及び内容についてご記入下さい。

農業情報処理の発展的な科目について

fig_23.pdf 履修校(n=154)のうち,農業情報処理の発展的な学校設定科目*8を設定している学校は10校(6.5%),検討中の学校は5校(3.2%),設定していない学校は(89.6%)であった(図23)。
 質問38で,科目名及び内容について聞いたところ,現在設定している学校から以下の回答があった。

 農業情報活用・・・・・・・・・(1)情報の処理と分析(2)プレゼンテーションソフトウェアの活用(3)マルチメディアの技術と活用
 情報処理実践・・・・・・・・(2年生)Webページの作成・画像処理など
 SS課題研究・・・・・・・・・生徒の科学的要素をより深めるような調査・研究・まとめ・発表を行っている(SSHの指定を受けて,大学等との連携を行っている)。
 環境情報・・・・・・・・・・・・表計算2級・ホームページ作成2級・地理情報全般・周辺機器類の扱い
 環境制御・・・・・・・・・・・・ホームページ作成2・1級・農業実物鑑定画像の扱い 

 また,科目名のみが記載され,内容の記述がなかったものは以下のとおりであった。
 コンピュータデザイン
 CAD(製図、設計)
 応用農業情報処理

 なお,科目名が明記されず内容の記述があったものは以下のとおりである。
 [科目名不明]・・・・・・・・一年(ワードエクセル教科書中心)・二年(検定学習・情報処理全般・テキスト中心)・ 三年(データ処理を考察・作成資料中心)

質問39:必須回答 情報教育の環境に関する質問
貴校では生徒一人ひとりに,学校のドメイン名のメールアカウントを発行していますか?
※発行している場合は「質問44」で具体的な事例をぜひご紹介ください。
○発行している 
○発行していない(アカウント発行を検討していない)
○発行していない(アカウント発行を検討した) 
○現在検討中(発行する方向で)             
○現在検討中(発行しない方向) 
○その他

質問40:[質問39]でその他を選択した場合は詳細をご記入下さい。

学校のドメインのメールアカウントの発行について

fig_24.pdf 回答校(n=170)を対象に,学校ドメイン名のメールアドレスを発行しているかどうかを聞いたところ,未発行の学校は147校(86.5%)(発行を未検討134校+発行を検討13校)であり,発行している学校は16校(9.4%)(単独校6校・併置校8校・総合学科2校(1校は未履修校))であった。現在検討中の学校は5校(2.9%)で,うち発行する方向で検討中の学校は1校(0.6%)であった(図24)。
 その他の学校2校(1.2%)は,「ドメイン名で発行は可能であるが現在は使用していない」,「併置校のため,ハードウェアやネットワークの管理は他学科にお願いをしている」との回答であった。

質問41:必須回答 情報教育の環境に関する質問
貴校では「クラウドサービス」を導入していますか?
※導入(活用)している場合は「質問44」で具体的な事例をぜひご紹介ください。
○すでに導入(使用)している 
○検討している(保存スペース+各種サービスを前提) 
○検討している(保存スペースのみ使用を前提) 
○導入しない(コスト低減などのメリットあるが,リスクもある)
○導入しない(外部サーバ接続にリスクがある)
○導入しない(生徒データは校内LAN内に保存すべき) 
○その他

質問42:[質問41]でその他を選択した場合は詳細をご記入下さい。

クラウドサービスの導入状況について

fig_25.pdf クラウドサービスを既に導入している学校は5校(2.9%),検討中の学校は9校(5.3%)であった。検討中の学校のうち,保存スペース及び各種サービス利用の検討校が6校(3.5%),保存スペースのみ検討が3校(1.8%)であった。一方,導入しない学校は151校(88.8%)あり,その理由は「生徒データは校内LAN内に保存すべき」が88校(51.8%),「外部のサーバに保存にリスクがある」が35校(20.6%),「コストメリットは理解できる」とした学校は27校(15.9%)であった。
 その他を選択した6校が指摘した内容は,「教育委員会で検討すべき事項であり,学校独自では検討していない。」,「設置者の関係で学校独自の環境は構成できない。ソフトウェアのインストール等も一切できない」,「教育委員会の指導により,クラウドサービス自体が利用できない。」,「併置校のため他学科の施設を利用して授業行っている。そのため,ハードウェアやネットワークの管理は他科にお願いをしている。」,「PCのスペック・システムが古いため(Windows me),検討する余地がない。」などであった。
 既に導入済みの学校で質問44に具体的な事例を記述した学校はなかった。
 最後の自由記述欄において,「質問41の「クラウドサービス*9」について,どこまでを指しているのかよくわからなかった。」という記述があった。脚注に補足したので参照いただきたい。

 設置者がクラウドサービスの利用を認めていない場合は,それに見合う施設設備を設置者の責任で提供できているか,その意思がある,もしくはその必要はないと判断しているかのいずれかだろう。
 問題は,設置者の判断が下されないままの状態で,果たして現場で判断することが可能なのであろうか。この判断は難しい。筆者の勤務校では後述のGoogle Apps for Education*10のサービスを利用できるよう設定は済んでいるものの,導入に踏み切れないのは,先のお墨付きを手に入れていないことと,学習支援サイト*6を使ってディジタルデータを提出するシステムができているからである。
 先ほどの質問の選択肢にある「生徒のデータは校内LAN内に保存するべきである」を選択した学校は88校(51.8%)あった。なぜそのように思うかといえば,生徒の作品(成果物)は成績に結びつくものからかもしれない。では,例えば授業中に終わらない生徒に対して,みなさんはどのように対応するのだろうか? 一般的には,「放課後PC室に残って実施しなさい」(Case1)と指導する。「今日はどうしても残れない」との申し出があった場合,別な日に残るよう指導するか,校内LAN内にあるデータをUSBメモリ等にコピーして自宅に持ち帰らせ,作業後ファイル(USBメモリ)を提出させる(Case2)しかない。現在は,Case2のようにUSBメモリをネットワークに接続すること自体ができない学校があるかも知れない。
 クラウドを利用するということは,生徒のデータがインターネット上にあるため,ネットに接続できる環境さえあれば,どこでも作業ができるということである。先の例で言えば,授業で終わらなかったデータは,「家」でも放課後の「PC室」でも作業をすることができ,場所を選ばない。
 生徒に宿題を出し,そのデータを電子データとして提出させようと思うと,メールで提出するか,提出用のシステムを別に用意しなければならない。ご承知のとおり,多くの大学等が学生にメールアカウントを発行している。理由は,学生との連絡を電子メールで行うためと,レポート等を電子データで提出させるためである。クラウドサービスを用いれば生徒がデータを保存するスペースもメールアカウントを管理するメールサーバも大学内に置く必要はないので,例えば自前でサーバを管理することを考えれば管理費を低減できる。そのため,Google Apps for Education*10などのクラウドサービスを導入している大学も多い(一橋大学・日本大学・放送大学など)。 

質問41:必須回答 情報教育の環境に関する質問
貴校ではノートPCを持参すれば画面等を投影できるようにプロジェクタ等が常設されている部屋(定員40名以上)の割合はどの程度ですか。
(注)計算式=整備済部屋数/教室数×100
(例)3学年15クラスの学校に整備済み教室が8部屋あれば,8/15=53.3% =>50%以上65%未満を選択
○100%以上  
○80%以上100%未満
○65%以上80%未満  ○50%以上65%未満
○35%以上50%未満  
○35%未満  
○わからない

プロジェクタの設置状況について

fig_26.pdf 可搬の小型プロジェクタが普及したとはいえ,授業のたびにプロジェクタとスクリーンを持参して授業を行うのは手間がかかる。プロジェクタが教室に常設されていれば,ノートPCを持参すればすぐに接続・投影できるので,使用に対するストレスは減少り,利用率も増加する。
 そのような学習環境を確認するための指標として,普通教室数と比較し,どれくらい整備されているかを調べた。結果は図26のようになった。およそ3/4の学校が常設で35%未満で最も多かった。100%以上はわずかに5校(2.9%),50%以上でさえ22校(12.9%)に過ぎない。
 専門高校の場合,特別教室での授業が多くなるため,可搬式のプロジェクタを常設するような形で使用している先生がいるかも知れない。自分専用の教室をもてる教師にとって工夫の余地はあるが,プロジェクタの常設が普及していかないと,普通教室における授業の情報化は進まない(本調査の趣旨である,「農業情報処理」の教育に関する部分と直接関わりはないかも知れないが)。
 アンケート全体を通して気づいた点という中で以下の記述があったので紹介したい。
【意見10】●県内の高校は、各学校にワゴンプロジェクタといわれるノートパソコンとプロジェクタとスクリーンが一式セットになったワゴンが数台ずつ配付されており、それを全体で共有しながら使用しており、視聴覚教室以外でも使用が可能になっている。
【意見12】施設設備等においては設置者により状況が大きく違うため 現在の環境でどれだけ有効な実践をおこなうかが大切であると考える。
 意見10のように,教育委員会が独自の施策として配布するということは行われているようである。●県のように,ワゴン型の場合は,バリアフリーの校舎であれば移動と設置が比較的容易なうえに,物品の管理についても紛失等が少ないであろう。▲県ではプロジェクタとスクリーンが1セット配布された。持ち運びは簡単であるが,プロジェクタを置く机やノートPCをその都度準備しなければならず,ワゴン型よりは機動性が落ちる。
 意見12は,「できる範囲で頑張っていこう」という現実的な意見であり,実際に有効な実践を積み上げていくかがとても重要である。プロジェクタを使う授業では,ファイルを作る必要がある。ある熟達した教師が生徒に有益なファイルを作ることは当然かも知れないが,人材育成が難しい今の時代,学校や学科として,作成した資源のデータベース化をはかり共有することも大切かも知れない。担当者が変わるたびに授業の内容や質が変化するようでは,“質”を保証する学校といえないかも知れない。
 「タブレットを活用した授業を考えているので,全国にどれくらいWi-Fi環境の整った学校があるか知りたい」との要望があった。次回の調査項目として是非検討したい内容である。

質問44:選択回答 調査に対して気づいたこと
(i)
アンケート全体をとおしてお気づきの点がありましたらご記入下さい。
(ii)
科目「農業情報処理」や教科「情報」の授業実践・活用事例を積極的にご紹介ください。
(iii)
新課程移行に伴い,「農業情報処理」の教科書が少なくなりました。教科書の内容に関してお気づきの点がありましたらご記入ください。

アンケート全体を通した意見等

 以下,質問44の記述式内容に記載された意見等32件の内容をこちらで整理したカテゴリー別に紹介したい。重複内容は一部整理した。また,記述内容に都道府県名や学科名が含まれている場合は,特定できないように,●県としたり,文章の一部を割愛したり,○系と分野を示すものなどに変更した。各意見に対するコメントを,回答・議論等として追加した。 

【農業情報処理の位置づけ】

【意見1】教科「情報」の代替科目としての位置づけから考え、農業情報処理の科目内容では、不足箇所が多い。また、設置授業数に関しても、十分とはいえず、農業科目の最低履修単位数から考えかなりしんどい状況である。
【議論1】・・・【意見1】が指摘しているように,教科「情報」としてみた場合,内容がやや薄いと感じる部分が多々あるかも知れない。しかし,「農業情報処理」は,教科「農業」の一科目であるので,“農業情報”を中心に取り扱っているので仕方がない。履修単位数の関係で,「農業情報処理」で代替という選択をしているのだとは思うが,2単位の履修(26校,代替校の22.2%)で教科「情報」を代替するには,指摘のとおり,かなり無理があるのも事実である。いずれにしても,教科「情報」の代替として指導する場合には,学習指導要領が示す「社会と情報」・「情報の科学」の内容の取り扱い*11で示されている内容を確認し,教科「情報」を指導していると意識する必要があろう。

【アンケートについて】

【意見2】質問41の「クラウドサービス」について、どこまでを指しているのかよくわからなかった。
【回答2】・・・クラウドについては,pp21-22を参照いただきたい。バズワードとの指摘もある。
【意見3】非常に内容が細かいので、もう少し簡潔な質問にして頂けたらと思います。
【回答3】・・・「Ⅰはじめに」で言及したとおり,「質の保証」という概念に耐えうるものにするには,こまかな調査が必要と考えた。回答に関するご苦労に対して敬意を表するとともに,みなさまのご苦労に見合う報告書に仕上げられるよう努力している。
【意見4】タブレット活用した授業を考えています。 全国に、どのくらいWi-Fi環境の整った学校が
    あるか知りたいです。
【回答4】・・・Wi-Fi環境については,今回の調査項目に含めることができなかった。タブレットを活用した授業では,Wi-Fi環境は不可欠となる。設置者の許可が必要になると思うが,教室まではLANケーブルが敷設されているので,アクセスポイントを設置することは対応は容易と思われる。

【各学校の事情について】

【意見5】農業学科3クラス40名定員で,PCは20台で他の科目と半分ずつでローテーションで1
    年次に学習を行っている。
【意見6】農業高校であるが各学科でカリキュラムが違うので学科により農業情報処理の内容や単位
    数が異なる。少ない学科で2単位から多い学科で6単位,また土木系学科はCADの学習に
    重点をおいている。
【意見7】本校には情報系の専門学科があり、検定などは専門学科が実施している。
【意見8】現在、本校の教科「情報」は,1学年の「社会と情報」であるが,来年度から選択で,2
    学年に「農業情報処理」が加わる。
【議論5〜8】・・・学校それぞれで条件が異なるので一括りにするのは難しい。設備の関係で20名ずつ半々で授業を行う場合は,相手科目にもよるが,例えば「農業と環境」の授業であれば,そこでえられたデータを情報の授業で処理をするというようなコラボレーションが可能かも知れない。学科毎に単位数が異なるのは仕方がない。私も前任校では,3学科の実施単位数が2単位・4単位・5単位と単位数が異なった。要は,その学科で必要な情報処理スキルをしっかりと身に付けられるかどうかが問題である。特に「情報」に力を入れている学科があるとすれば,その学科が中心となって検定に関する資源を集中するという方法もある。セクト主義に陥らず,学校として底上げを図るには各学科で協力・連携しながら,授業計画を行う必要がある。教科「情報」を履修する学校では,「農業情報処理」は教科「農業」の科目として,内容もそれに見合うよう工夫する必要がある。

【施設について】

【意見9】■県ではハードウェア・ソフトウェアの導入に関しては,すべて教育委員会が決定してい
    るため、現場の要望が反映されない。
【意見10】●県内高校に,ワゴンプロジェクタといわれるノートパソコンとプロジェクタとスクリー
    ンが一式セットになったワゴンが数台ずつ配付されており,それを全体で共有しながら使用
    しており,視聴覚教室以外でも使用が可能になっている。
【意見11】質問43では,常設されているプロジェクタは少ないが,持ち運べるプロジェクタはたく
    さんあり,活用している。
【意見12】施設設備等においては設置者により状況が大きく違うため,現在の環境でどれだけ有効な
    実践をおこなうかが大切であると考える。
【議論9〜12】・・・一部意見はp23の考察にて紹介済みであるので重複は避ける。施設設備の導入に際し、教育委員会が責任をもって整備をすることは大変好ましいことである。他の都道府県等の実態を踏まえつつ,教育環境をきちんと整備できれば、それに越したことはない。2014年4月9日をもってWindowsXPのサポートが切れるが,アンケートの中ではWindows Meを使用しているという報告されており,設置者の財政状況によっては更新がままならない実態も明らかになった。XPサポート終了に伴い,Microsoft社は更新のプランを紹介している*12が,いずれの場合も多額の資金が必要となり,行政側でスムーズな対応ができない場合も想定される。対策として,p9の脚注5で紹介したPortableAppsのアプリケーションを活用したり,LinuxなどのオープンソースのOS等へ移行するという方法もあるが,ソフトウェア等のインストールを許可されていない場合はそれも難しい。

【その他】

【意見13】農業と情報を関連づけて学習内容を考えているが,教科「情報」の研修などはあっても農
    業情報処理に関する研修などがないため,手探り状態で不安な中授業を行っている。
【意見14】今年度より,「農業情報処理」を担当することになり,手探り状態です。アンケートの結
    果も参考にさせていただき,今後に活かしていきたいと考えています。
【議論13・14】・・・教科「情報」研修では,指導要領の内容の取扱い*11にあるような,「生徒が主体的に考え,討議し,発表し合うなどの活動を取り入れること」を意識した研修が行われるが,この手法は「農業情報処理」でも有効である。「情報社会の在り方」などのテーマを「農業」に関連づけてアレンジすることが可能である。スキル習得にどうしても時間がかかるが,発表等も行わせたい。

【実践事例等】

【意見15】1年生の「農業と環境」の授業で枝豆を栽培し,その生育調査と収量調査の結果を「農業
    「農業情報処理」の授業でまとめレポートを提出させている。
【意見16】「生物活用」における校外での栽培プロジェクトのデーター処理に活用。
【意見17】質問21の授業内容でメーラと教科書を併用して,「電子メールの利用」を説明
【意見18】ノート記入をwordでおこなっている。
【意見19】1年生は全員履修,2年生で選択科目としている。3年生で「課題研究」でパワーポイン
    トを使用したプレゼン発表を研究グループで行っている。
【意見20】農業情報処理の授業を課題研究とリンクさせて行っている。
【意見21】全国商業高等学校協会主催のビジネス文書実務検定・情報処理検定を希望者に受験させて
    いる。主に2〜3級。従って「商業」科目の内容も取り入れている。
【意見22】全商ビジネス文書実務検定・全商情報処理検定を希望者に受験させている。文書構成(マ
    ナー)は農業情報処理の分野で扱わないので,別の授業で対応している。
【意見23】総合学科高校であり,必修で教科「情報」があるため,農業情報処理は選択科目として位
    置づけられている。ここではMOS EXCEL SPECIALIST*13を取得させることに特化している。
【議論15〜23】・・・【議論15・16】こういう地道な積み重ねがとても大切であり,つい忙しさに負けて手間暇をかけなくなってしまう教員が多い。調査と集計は,栽培過程での記録をしっかりととっておけば,収穫後の実施でも良い。処理区を作って比較する場合は,検定等を行うことも可能となる。
【議論17】はp11において紹介したが,メールは普段の生活で良く使用するツールなので,その技術について理解させることは重要な実践である。
【議論18】・・・ノートに記入した内容をword等でテキストにし,それらをまとめることは大切である。問題は,テキストに打ち直すタイミングだと思う。【意見4】でタブレット活用について記述があるが,タブレットの最大のメリットは「何処へでも持ち出せる」ということであり,タブレットを使って直接テキスト入力可能となるし,生育記録などをその都度入力することも可能である。野帳等に記録する場合は,事前指導を十分しておかないと,いざPC室で入力する段階で記録が散逸している等ということもある。なるべく早めに入力する方が,不測の事態にも対応しやすいだろう。
【議論19・20】・・・p10の「農業情報処理」と他科目との連携の項で示したように,「農業情報処理」と連携しているケースは半数に満たない。「農業と環境」と連携しながら,1年次に2単位履修の学校は12校(7.8%,2校は一部の学科で2年履修もある)しかない。情報処理のスキルを身に付ける科目で,なるべく低学年で実施させたい科目であるが,1年生で2単位のみでは連携が難しいことが分かる。高学年での履修は,他科目との連携がしやすいということは,先のデータで67校中34校(50.7%)が3年次の履修であることからも分かる。
【議論21〜23】・・・【意見21・22】では,全国商業高等学校協会主催のビジネス文書実務検定と情報処理検定に関する記述がある。全商は組織もしっかりしているし,商業高校の生徒が受験することを前提としているので受験料も安いこともあり,人気の検定である。筆者の勤務校(総合学科校)でも教科「商業」の教員が配置され,検定関係の指導とコーディネートで大いに活躍している。今回の調査で全商関係の試験以外に回答のあった検定は,MOS EXCEL SPECIALIST*13であった。

【実践と教科書の関係】

【意見24】教科書の内容では,農業との関連した学習内容についても取り扱いますが,検定の取得が
    主な目的となってしまっています。 ただ,1年次に農業情報処理で検定を受けることによっ
    て,目標に向かって努力するなどの力が身に付き,教科外でも必要な能力を身につけること
    ができています。
【意見25】検定学習(文書デザイン3級、表計算2級)のため,教科書は少し触れるだけです。
【意見26】情報処理の授業では文書作成や表計算などの利用技術の修得が優先課題になっており,教
    科書に載っている概論的な内容を取り扱う時間が持てない。
【議論24〜26】・・・【意見24】で検定の効用について述べられているが,検定に取り組めせることによって生徒のモチベーションがアップすることは事実である。ただし,副作用として「絶対無理」と諦めてしまう生徒がもう一方に存在するのも事実である。生徒自身がモチベーションを見つけにくい昨今の状況の中で,資格を取得するという向上心をもって日々授業に取り組ませることは,情報スキルを身に付けるという情報教育の目的を達成することにもつながる。そして,検定の学習として一生懸命に取り組んでいる文書作成や表計算処理のスキルは,「農業情報処理」や「課題研究」のまとめ等に十分生かせるということを理解させたうえで,自分が所属する学科に関連する分野でコンピュータが活用されている事例など教科書を使った授業で補足する必要があるのではないか。

【教科書に関する要望等】

【意見27】「農業情報処理」と「情報」の棲み分けをする必要があるのかと思います。分けるのであれば,
     何でもありの教科書にするのではなく,「何に取り組む必要があるのか」をあらためて検討すべき
     と思います。
【意見28】教科書を最新の内容でカラー配色,ワークブックを希望します。
【意見29】教科書については、農業に関連した例題と練習問題が記載されているので使いやすい。
【意見30】教科書内容が使いづらい。表計算やワードプロセッサの練習問題数が不十分。最新の情報端末や
     セキュリティの記述が少なく古い。
【意見31】現在の技術の進歩状況からすると,内容が古いのではないか。フロッピーディスクやMOなど,
     いまだ古い情報が記載されている。
【意見32】生徒の実態に即した内容のものを教科書として作成してもらいたい。
【議論27〜32】・・・【意見27】は大変示唆に富む内容である。分けるのであれば「農業情報」に集中する必要があろう。一方で,履修校(n=154)の3/4以上の学校で教科「情報」を代替しているという事実もある。【議論1】で述べたとおり,代替校では,教科「情報」の教科書と見比べ,「不足分は補う」という意識をもっていただきたい。【意見28】については,出版社の事情が多分にある。2013年8月7日公表の学校基本調査*14によれば,教科「情報」は320万の生徒が対象なのに対し教科「農業」は8万の生徒が対象となる。発行部数の関係でカラー化は見送られたと考えられる。同様に,ワークブックもある程度の部数が見込めれば発行は可能かもしれない。【意見29】がある一方で【意見30】もある。「検定教科書」の中に練習問題を記述する場合,基本的な練習部分は記述できても,検定練習に使える量を求めるには無理がある。【意見30〜31】にあるように,記述内容が古いという指摘に対しては真摯に対応する必要があろう。ただ,教科書として,掲載可否の基準の判別は難しい。実物鑑定の実施基準等に記述されているハードウェアは少なくともカバーする必要があると思う。【意見32】は,現場の教師が教科書づくりに参加しているとはいえ,万人が満足する教科書づくりは難しい。「こういう観点で改善して欲しい」という具体的な要望を届ける以外にないのかも知れない。

Ⅳ 考察及び課題

 教科「情報」の代替については,p24の【議論1】で述べたとおり,およそ3/4の学校が代替している。うち,2単位履修の26校(22.2%),教科「情報」の内容の取り扱いを確認し,代替にふさわしい内容とする必要がある。
「農業情報処理」に限らず,教師は教科や科目の目標をきちんと意識して指導する必要がある。例えば,「農業情報処理」でいえば,「農業情報及び環境情報を主体的に活用する能力と態度を育てる」という目標を具現化するために,どのような授業を展開するべきかを考える。本科目で身に付けるコンピュータ利活用のスキルは,教科「農業」の各科目のデータ処理を支える基盤科目として位置づけられており,図27*15のようなイメージで捉えることができる。
 教科「農業」では,集大成として「課題研究」につなげるために,文書作成や各種計算,プレゼンテーションの作成などの情報スキルを身に付ける必要がある。なかでも,「データ分析」に関しては,p18でも触れたように,平均値の集計やグラフ化が中心である。図28*16が示すとおり,実験Aと実験Bは同じ平均値であり,実験Aの集団は実験Bに比べて平均値付近に集中している。両者は異なる集団であることは,ヒストグラムを作成すれば容易に分かるが,平均値のみで比較をした場合,両者の違いを見逃す可能性がある。Excelでデータ処理を行う場合は,標準偏差*7についても簡単な関数式で計算できるので,是非計算させたい。

図27 基盤科目としての農業情報処理図27 基盤科目としての農業情報処理図28 分布の違い図28 分布の違い

 「メール等の機能を使った授業」を展開もしくは検討している学校は非常に少なく15%に満たないが,メール機能を上手に活用することで授業の進め方を変化させることができるかも知れない。例えば,メーリングリストを使って事前に学習範囲を説明したり,使用するファイルを配布したり,質問のやりとりなどに使える。また,オープンソースのeラーニングシステムを使って,生徒にIDとパスワード発行すれば,セキュリティに配慮しながら,授業の振り返りや各種ファイルのダウンロード,インターネットから課題の提出等が可能となる*17。宿題を事前にインターネット上でオンライン入力させると,授業時に回収等をする必要もなく,しかもテキストで入力されていれば加工もしやすい。授業時は「本来活動したい内容(発表等)」に集中して授業を進めることもできる。授業終了前の振り返りで「当日実施したこと・分かったこと・分からなかったこと・感想等」をブログを記入させれば(閲覧範囲を自分と教師のみ),学習の過程を後で日付順に確認可能でき,教師はコメントを書くこともできる。大学等でも導入されているシステムであり,今後高校段階でも普及すると考えられる。
 検定と授業内容については,p12でも述べたとおり,大変悩ましい問題である。検定は,生徒のモチベーションの向上には大変有効であり,実際,文書作成では8割を越える学校で検定と関連づけて指導している。問題は,指導時間をどのように確保するかであり,繰り返しの時間を「授業」で確保するのか「放課後の補習」で確保するのかによって,合格率も変わってくる。今回のアンケートにおいても,検定によって授業時間がかなりタイトになっている実態がうかがえる。検定の合格率は数値としてはっきり(視覚化)するので,学校評価の指標などに設定すると,合格率向上のための圧力が増すことも想定される。

Ⅴ おわりに

 中教審で高等学校における教育の「質の保証」が議論されている。p27の脚注に示したように,普通高校と比較して生徒数だけみても,農業系高等学校の生徒数はかなり少ない。しかし,人数が少なくなってきたとはいえ,実際の専門高校は元気のない存在だろうか。加盟校がそれぞれの強みを生かしながら,「本校はこんな教育を行っている」という説明責任を果たしながら,地域のなかでそれなりの存在感を発揮していると思う。
 新しい学習指導要領の本格実施に伴い,各科目でどのような教育内容が行われているかをきちんと把握するとともに,この科目を学習すると「こういう力を身に付けられますよ」と説明できるものを提供する必要があると感じていた。そこで,本年度の流通系部会では,科目「農業情報処理」に関する取り組み状況について全国規模の調査を実施することにした。
 本調査結果を踏まえて,いろいろな角度からできうる限り「農業情報処理」の授業に関する状況を把握するよう努めたが,本報告書を手にしたみなさんにとって十分な結果であったかは正直分からない。みなさんご自身で本報告書の内容を吟味され,参考となるところをつまみ食いしながら,授業改善の一助としていただければ幸いである。

謝 辞

 本アンケートは,回答者に実際に授業を担当している教師に依頼し,なるべく具体的に指導内容等を把握しようとしたため,かなりこまかな内容となってしまった。したがって,回答者に必要以上のお手を煩わせてしまったことに,まずお詫び申し上げたい。また調査期間が約1ヶ月と短かったにも係わらず,全国から170校の回答が得られた。この面倒なアンケートに対して,全国からご協力いただけたみなさん一人ひとりに感謝申し上げたい。
 回答者が情報担当者ということもあり,農場協会のWebサイトから直接入力するWebアンケート形式で実施した。質問紙を使ったアンケートと異なり,Webページへアクセスしなければ回答できないなか,多くの会員から回答を得ることができた。これも,全国理事のみなさんが会員校に対して適切に文書を送付していただけたおかげである。併せて感謝申し上げたい。
 本アンケートの実施について,Webアンケートを実施するためにサイトの使用許可をいただいた,公益法人全国学校農場協会の関係者のみなさまに感謝申し上げる。協会の財産であるWebサイトを活用してアンケートすることで,協会のサイトが会員みなさまにとって身近な存在となることを期待したい。

ご質問・ご意見・ご感想の投稿について

 報告書(詳細版)をお読みいただき,みなさまが率直に感じられた,ご質問・ご意見・ご感想等ありましたら,下記Webページよりご投稿ください。
農場協会HP        http://www.nojokyokai.or.jp/専門部アンケート/
             ※本アンケートに関するWebページは2013年度いっぱい開設予定である。
2013アンケートのページ http://enq2013.nogyokyoiku.net/

download.pngPDF形式のダウンロードはこちらのページから