〔5〕科目「農業情報処理」の取り組みに関する調査
〔流通系部会〕

Ⅰ はじめに

 流通系部会では、数年前から流通・経済系学科における生徒の販売に係わる取り組みや活気ある活動について調査研究を行ってきた。活気ある意欲的な取り組みやその実施に関連した課題等をまとめて発表するというマクロな調査は、学科運営を考えるとき大変参考となった。
 一方で、中教審で高等学校における教育の「質の保証」が議論されている背景などもあり、新しい学習指導要領に則った授業がスタートした今だからこそ、各科目の実施状況をきちんと把握するという、ミクロな調査も継続的にきちんと行う必要があると考えた。
 そこで、本年度の流通系部会では、科目「農業情報処理」に関する取り組み状況について全国規模の調査を実施することにした。本調査が、授業に関する状況を把握するとともに、会員の授業改善のための一助となれば幸いである。

Ⅱ アンケートの概要

 1 アンケート規模

   全国規模の調査(全国学校農場協会から全国理事を経由して各校へ文書*1を送付する)

 2 アンケート調査の方法

   Webアンケート(全国学校農場協会Webサイト*2にアンケートフォームを作成・実施)

 3 アンケート期間

   平成25年7月20日~8月20日

 4 アンケート回答校数

   東京都・滋賀県・大分県を除く44道府県の170校(回答率:44.7%(加盟380校))から回答があった。

 5 回答校の校種 

   回答校の校種は、次の通りであった。以下( )内は対象の割合(%)を示す。
   農業単独校:69校(40.6%)・併置校:73校(42.9%)・総合学科:21校(12.4%)・その他:7校(4.1%)
   なお、平成25年度の当協会会員校は、380校(学校でない埼玉県総合教育センターを除く)が加盟しており、
  校種別の割合は次の通りである(全国学校農場協会資料)。
   農業単独校(34.5%)・併置校(38.9%)・総合学科(17.1%)・その他(9.5%)

Ⅲ 研究結果

 1 回答校の学校規模・履修状況等

fig01.png 回答校170校の平成25年度学校全体の入学生募集定員は、図1のとおりである。最頻値は120名規模であり、中央値は160名規模であった。
 科目「農業情報処理」の履修状況は、154校(90.6%)が履修していた(以下、「履修校」という)。履修校(n=154)の校種は、農業単独校:67校(43.5%)・併置校:71校(46.1%)・総合学科:11校(7.1%)・その他:5校(3.1%)であった。履修していなかった高校(以下、「未履修校」という、
(n=16))は、総合学科が10校(62.5%)であり、単独校・併置校・その他は各2校(12.5%)であった。

 2 科目「農業情報処理」の履修状況

 履修校(n=154)の履修学年の状況は、1年次123校(79.9%)、2年次119校(77.3%)、3年次85校(55.2%)、4年次2校(1.3%)であり、8割近い学校が1・2年次に履修させている。
 本科目は4~6単位程度の履修を想定した内容構成になっているが、実際に4単位以上履修させている学校は109校(70.8%)であった。なお、以下、3単位以下履修の44校(28.6%)を少単位群、4・5単位履修の64校(41.6%)を中単位群、6単位以上履修の45校(29.2%)を多単位群と定義する。

 3 教科「情報」の代替状況

 科目「農業情報処理」の履修校(n=154)のうち、教科「情報」を代替している学校は117校(76.0%)であり、代替していない学校は26校(16.9%)、未回答11校(7.1%)であった。これは平成22年9月実施の調査*3結果とほぼ同じ傾向を示している。代替校(n=117)の内訳は、単独校:56校(47.9%)・併置校:59校(50.4%)・総合学科:0校・その他:2校(1.7%)であり、総合学科高校では教科「情報」を代替していないことがわかった。

 4 科目「農業情報処理」の学習内容について

fig02.png 学習指導要領が示す科目「農業情報処理」の内容について、履修校(n=154)で取り扱う内容(「取扱内容」)と指導時間の長い5つの内容(「重点内容」)を聞いたところ、図2の回答となった。「情報とその活用」・「情報モラル」・「ハードウェアとソフトウェア」・「情報のセキュリティ管理」・「情報通信ネットワーク」が上位5項目であった。以下、内容選択率40%・重点内容の選択率20%を超える内容として「農業学習と情報活用」・「農業情報の活用」・「農林業における情報の役割」が続く。履修単位数と取扱内容について、明確な関係性を見いだすことはできないが、少単位群→中単位群→多単位群と履修単位数が増加するに従って取扱内容の選択率が高くなる内容は4項目あったので紹介したい。それらは、「情報モラル」(86.4%→90.6%→93.3%)、「情報通信ネットワーク」(52.3%→67.2%→73.3%)、「情報システム」(34.1%→34.4%→40.0%)、「森林情報の活用」(6.8%→7.8%→8.9%)であった。同様に、重点内容において単位数の増加に伴い選択率が高くなる内容の4項目は、「情報モラル」が「情報のセキュリティ」(47.7%→48.4%→55.6%)にかわるが、残り3項目は同様であった(「情報通信ネットワーク」(34.1%→42.2%→46.7%)、「情報システム」(13.6%→14.1%→20.0%)、「環境情報の活用」(2.3%→3.1%→6.7%))。また、「ハードウェアとソフトウェア」は、少単位群→中・多単位群で増加が見られた(取扱内容選択率72.7%→84.4%→84.4%、重点内容56.8%→67.2%→66.7%)。
 「その他」を選択した15校(9.7%)から得られた具体的な取扱内容としては、「文書作成・表計算・プレゼンテーション等のソフト」の習熟を中心とした演習、文書処理検定・情報処理検定などの検定対策の演習など選択する学校が多く、ソフトウェアの習熟に時間をかけていることがわかった(詳細は報告書(詳細版)を参照)。また、他科目との連携として、地域交流活動の報告書やプレゼンテーションを作成する学校もあった。3年次の第2学期にプログラムを学習する学校もあった。

 5 科目「農業情報処理」の授業で使用するソフトウェアについて

fig03.png 履修校(n=154)の授業で実際に使用しているソフトウェアについて、使用するすべてのソフトウェア(「取扱sw」)と指導時間の長い5つのソフトウェア(「重点sw」)を聞いたところ、図3の回答となった。ワードプロセッサ・表計算・プレゼンテーションソフトは90%を超え、他のソフトウェアと比較して圧倒的に使用率が高い。これらに続くソフトとしては、ブラウザ・ペイント系画像ソフト・Webページ作成ソフトである。教科書で取り扱われているデータベースの使用率は11.7%と重要なソフトウェアである割に使用率が低い。また、重点swについては、ワードプロセッサ・表計算・プレゼンテーションソフト・ブラウザ・ペイント系画像ソフト・Webページ作成ソフトと、取扱swとほぼ同じ傾向であった。取扱swのうち、履修単位数が増加するに従って使用率が高くなるソフトウェアは、「ブラウザ」・「データベース」・「プレゼンテーションソフト」・「webページ作成ソフト」・「ビデオ・音楽編集ソフト」・「アニメーション作成」・「3次元CGソフト」・「CAD」であった。
「GIS」と「その他」は少・中単位群で選択されていなかった。「その他」のアプリケーションは、タイピングソフトウエア・3Dモデリングソフトウェア・PortableAppsをベースにしたソフトウェアなどの回答があった。
 6 「農業情報処理」と他科目との連携について
 履修校(n=154)に他科目で取得した情報を「農業情報処理」の授業で処理する機会を意識的に作っているかどうかを聞いた。「農業と環境」を含む他科目と連携している学校は29.2%、「農業と環境」以外の科目と連携している学校は14.3%で、両者を併せると43.5%であった。他科目と連携したデータ処理を行っていない学校が41.6%なので、両者はほぼ同数であった。また連携を検討している学校は13.6%あった。
 7 「農業情報処理」におけるデータ分析の指導内容について
 全ての履修校(n=154)が表計算ソフトを指導しているものの、それをデータ分析の指導場面に生かしているとはいえない。データ分析の指導内容において、グラフ化(68.8%)や平均値の集計(61.7%)は多くの学校が実施しているが、一歩進んで標準偏差の集計となると11校(7.1%)であった。以下、分散図(2.6%)・箱ひげ図(1.9%)・t検定(1.3%)であり、χ2検定やF検定は0%であった。なお、取り扱わない学校は、「授業時間数の関係」(14.3%)・「生徒の実態に合わない」(11.0%)・「指導しにくい内容」(4.5%)などの理由を指摘し、併せて35.1%ほどに至った。
 8 メールやSNSの機能を使った授業について
 履修校(n=154)のうちメールやSNSの機能を使った授業を展開している学校は7校(4.5%)であり、展開していない学校は133校(86.4%)であった。検討している学校は14校(9.1%)であった。関連する質問として、回答校(n=170)に学校ドメイン名のメールアドレスを発行している学校は16校(単独校6校・併置校8校・総合学科2校(1校は未履修校))で、発行する方向で検討中の学校は1校だった。発行していない・発行しない方向で検討中の学校を合わせると151校(88.8%)であった。

Ⅳ 考察及び課題
 「農業情報処理」に限らず、教師は教科や科目の目標をきちんと意識して指導する必要がある。例えば、「農業情報及び環境情報を主体的に活用する能力と態度を育てる」という目標を具現化するために、どのような授業を展開するべきかを考える。本科目で身に付けるコンピュータ利活用のスキルは、教科「農業」の各科目のデータ処理を支える基盤科目*4であり、集大成として「課題研究」につなげることを目指している。Ⅲ-7「データ分析の指導内容」に関連して、表計算ソフトの学習で、平均を求め、グラフを作成させる場面は必ずあるが、その時に、例えば草丈や気温などの「農場」にある具体的なデータを扱うべきであろう。また、データ処理においては平均値だけの比較では不十分な場合もあるので、標準偏差*5などの指標も是非学習させたい。
 Ⅲ-8「メール等の機能を使った授業」を展開もしくは検討している学校は非常に少なく15%に満たないが、これらの技術を活用することで、従来の授業が変化する可能性がある。例えば、学習支援サイト*6などを使うと、授業の振り返りやインターネットから課題等の提出が可能となる。課題を事前に回収することができれば、授業時は「活動したい内容」に集中して進められる。本報告は、紙幅の関係で調査の一部についてのみ報告と考察を行った。本アンケートの報告書(詳細版)をWebサイト*2にアップロードするので、ご参照いただきたい。

Ⅴ おわりに
 科目「農業情報処理」に関するアンケートは回答者を情報担当者にお願いすることで、協会のWebサイトで直接入力するWebアンケート形式で行う全国アンケートとした。調査期間は約1ヶ月と短かったにも係わらず、170校から回答が得られたのは、全国理事・回答校・サイトの使用許可をいただけた協会など、みなさんのおかげである。ご厚情に深謝申し上げる。

(委員) 神奈川(平塚農業高等学校)扇野 由尽  千 葉(大網高等学校)鈴木 寿裕
    茨 城(水戸農業高等学校)谷田部尊意  静 岡(磐田農業高等学校)桂  武彦
    群 馬(伊勢崎興陽高等学校)川島 一秀(部会長)
(注)
*1     依頼に関する関係文書は、以下のWebサイト *2 からダウンロード可能
*2     農場協会HP http://www.nojokyokai.or.jp/専門部アンケート/
   ※アンケートの内容は、次のサイトから閲覧可能である。 
  農業教育.net http://enq2013.nogyokyoiku.net/ (2013年9月確認)
  ※本アンケートの報告書(詳細版)は上記Webサイトからダウンロード可能である。
*3     教育課程(「農業情報処理」の実施状況)について  平成22年度研究集録 第48号  pp157-159 全国学校農場協会・全国高等学校農場協会 
*4   ・*5   木谷収ら[2013]農業情報処理 実教出版(検定教科書) *4 p138  *5 p187
*6     学習支援サイトの例 http://manabi.nogyokyoiku.net/moodle/ (2013年9月確認)

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